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歴史・文化財 資料アーカイブ

宇都宮にまつわる民話

成高寺

 

 むかし、成高寺の啓磐和尚は、たいへん優秀な僧として多くの人々の信頼を受けていました。和尚は、光明寺を建てるときに、その用材として二荒山の杉の木を切ってしまいました。そこで、多くの人々は、「二荒山大明神さまの怒りがあるのではないだろうか。」と言ってうわさしあいました。
  ある日、近くに住んでいる一人の年とった男が、田を耕し、疲れがひどくなったので、田のあぜのところでうたた寝をしてしまいました。すると、夢のなかに一人の神主があらわれました。
 「啓磐和尚は、二荒山の神木を勝手に切ってしまった。罰を下そうと思うのだが、たいへん優秀な僧なので、 梵天(ぼんてん)王の許しを受けてから処罰するつもりである。そこで、今から天まで使いに行くのでなんじの白馬を借して欲しい。」といって姿を消しました。
 急いで家に戻り馬小屋を見ると、白馬の姿はどこにも見あたりませんでした。この不思議な出来事を和尚に告げると、男は気を失ってしまいました。和尚は、「仏様の助けを借りる以外に方法がない。」と思い、その日から昼も夜もお勤めに励みました。
  ある日、和尚は茶の間でお茶を飲んでいると、うとうとと寝入ってしまいました。すると、夢の中に梵天王の使いの者があらわれました。
 「なんじは、勝手に二荒山の杉の木を切ったふとどき者である。なんじの命を絶つようにと命令を受けてきたが、なんじのからだのなかにお経が満ちていて矢を射ることができなかった。今日こそ思い知るがよい。」と言って矢を射ると、その矢が足の甲に当たったところで夢から覚めました。
 驚いて飛び起き、まわりを見まわしましたが、だれもいません。和尚は「ついに心のなかにすきをつくり、お勤めをおこたってしまった。」と言って残念がりました。